ツンギレ3

「っつか正よー」
「んだよ」
「またなんか面白いことに巻き込まれてるみてーじゃん」
「何だそれ」
「ほら、総代表」
「あら面白そうな話じゃない?」

 脳内に「ずざっ」と言う効果音が響いた。
 誰もが去った教室の中、いるのは俺と俊喜の二人きり――油断していた、って言っていいんだろうか。いや多分許されないはずだ。机と椅子を一つずつ後ろに飛ばし、それはもう派手に動いてしまった。
 また見事なタイミングでの登場だ。佐々倉有利。左手にはなにやらプリントを抱えている。
「どうしたの、えーと……佐藤君?」
「ちげえよ」
「そう? ごめんなさい、まだクラスメート把握し切れてなくて」
 よく言うよ、が危うくこぼれ出そうになった。
 佐々倉の、相変わらずの満面の笑み。いちいちそれがどういう意味なのかなんてのを考えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの。こう言うのも癪だが元の作りがいいだけに、なおさら洒落にならない。
「あ、そういや佐々倉さんだっけ? 今朝こいつと抱き合ってたよね」
「へえ?」
 ――っあああああああああああああ!
「近藤くん、見てたんだ? あれ」
「そうそう、俺も近所だからって油断してたら遅刻しかけてさー、そしたら何かいきなりそんな場面に出くわすじゃん? であの時どうして怒鳴んのやめたの?」
 佐々倉の笑顔にヒビが入った。
 ように、見えた。
「ふーん」
 佐々倉がその両手で顔を覆った。肩を若干ながら落としている。
 も、もしかして悪いことでも言っちゃったのか――などと思えば、
「そうか、じゃあんたら二人の前では抑えてなくていいんだ」
「はぇ?」
 えらい間抜けな俊喜の声が切れるか切れないかの頃には――
 目にも留まらぬスピードの右ストレートが、そのあご先をかすめていた。
 状況を把握しきれないその目が佐々倉を見ようとしたが、それもかなわず上のほうに逃げていく。そのあとの展開について俺が抱けた感想は、もう「うわー糸が切れるようにってこういうこと言うのかー」位しかない。
 入学初日で早速フロアを舐めることになった俊喜の頭に、容赦なく佐々倉の上履きが乗る。
「斉藤」
「覚えてんじゃねえか」
「っさいわね。改めて言っとくけど、あたしいい加減他人から恐れられるの我慢ならないのよ。だからあたしは品行方正な優等生なの。あー正直あんたら二人今すぐ殺したいわー」
「お前、大概物騒だな」
「まーいいわ。こうなったらあんたら二人にも協力してもらうから」
「人の話を聞け」
「色々プランは練っとかなきゃだけど、何はさておき言ったら全殺し。いい?」
「いい、じゃねーよ」
「そうとわかったらさっさとこの生ゴミ片付けて」
「だから、」
 言いかけて、すぐに気力が萎えて行った。
 俊喜の頭辺りからごり、と言う音が聞こえる。
「じゃ、また明日」
「お前、」
 腹が立つほど颯爽とした足取りでプリントを教壇に置き、立ち去る佐々倉。
 後に残るは俺と俊喜の死体。――さて。
「た、正」
「おう、何か言い残したことでもあるか」
「し、白だった」
「何が」
「佐々倉さんの――」
 死ねばいい、こんな奴。


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